手を膝について前かがみに息を整えていた蔵馬は後ろを振り返って言う。

「お前、足けっこーはやいじゃん」

「そりゃどーも・・・ってお前に褒められてもうれしかねーよ」

「はは」

笑うと唇がめくれて鋭い犬歯が垣間見える。

この飄々とした化狐はどんなふうに獲物を食い殺すのだろう。この歯を使って。

性格に反して壮麗な白い容姿は血と肉にひどくつりあうように感ぜられた。

しげしげと見下ろすオレの視線に気付いたのか、前屈姿勢のまま顔を少し上げて

「何だよ」と言う。

「いや・・・なんつーか・・・」

「ん?」

「何で気付かなかったのかと思ってさ・・・」

顎に下をやりながらオレは内心自分を罵りつつも活発な感情と衝動を 煽るその顔を見つめていた。

いくら血と食べカス(・・・)に汚れてばっちくなっていたとはいえ

こんなメシのタネな美人をみすみす見逃すとは。

ひっ攫って崑崙シティーに売れば一年は遊んで暮らせる。

少々腕は立つみたいだが、オレの経験と実績からすればちょろいもんだ。

切れ長の琥珀色の瞳が最後の日に赤く光り、ころころと色が変わり行くさまを見ながら思案する。

ここでスマキにしてもいいが、崑崙近くまでうまく連れて行ったほうが

オレも手間がかからない。

さて、どうしたもんか・・・

器用に尻尾をつかって土ぼこりをはらう肩から腰の丸みの少ない線を見てか、

夕闇のせいか、言いようのない塊がぞくりとオレの背中を伝う。

ありていに言えば、ムラムラ来たっつーことだ。悪いか。

普段、好き好んで男は抱かないが、女以上に好みのツラの奴やすげー技持ってるヤツとや、

もてなしの一環を受けたり、それなりに経験はある。

長く生きていればいろいろ、ある。

元来、妖怪はおのれの欲望に正直であるから、お互いにそのものを求め合えば

男女の隔ては却って少ない。

この妖狐は性格はおいといて今までオレが見てきたどんな女より小姓よりすげえタマだ。

売り飛ばす前に味見しないともったいないかもしれない・・・。

考えが大分横道にそれてきたところで、蔵馬がオレに話しかけているのに気付いた。

「何かニヤけてんなお前。それよりさ」

「ニヤけてにゃんか・・・う」

「カミカミじゃん。なあ、お前宿とってるか?」

「あー?一応な。町外れの安宿だけどな。金ねーし」

「今日、そこ泊まる。いこ」

「・・・はあ?!」

ずんずん歩いていくヤツのなびく銀髪がしゃら、と音を立てそうなほど

滑らかなことにいまさら気付く。

よく考えるとこちらには都合のいいお申し出だが、なんかムカつく・・・。

「まだ追手の気配がする。お前の連れってことで宿に泊まった方が カムフラージュできるだろ?」

「ああ・・まあなあ・・・。ちょっと待て。オレの部屋、ベッド一つしかねーぞ?」

「気にすんな、いっしょに寝るから」

この瞬間、想像力が激しく活発になったオレをきっと誰も責められないはずだ。

あの細い腕と肩をオレの下に抱き込んで、白装束を肩から優しく脱がせて

托しこんだ下の衣に隠れていた肢の付け根へ手の甲をすべらせる・・・

「う・・・ヤバ・・・」

「何やってんだいくぞーー」

羽がぐるぐるしそうになるのを必死に堪えた。

何か全部ヤツのペースで事が運んでるのは気に入らないが、

これは・・・誘われてるってことでいーんだよな?!

うん。

オレはまちがってない。









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