「まったくアンタはいっつもテメェ一人でうまれたよーな顔してケンカばっかしてさ〜」

「おふくろ飲み過ぎなんだよー」

「ちょっと幽助!温子さんの言ってることは正しいわよ。何でいっつも一人でどっかに行っちゃうの? 私どんなに・・・」

「ひゅーひゅーいじらしいねぇ」 「ほんとほんと。若いっていいやねぇ」

「ちょちょっと静流さん!ぼたんさん!」

「コラぁゆーすけぇーー!」 「イテテ!おふくろ!離れろよ!」

「皆さん愉快な方ばかりですね」

「雪菜さん・・・何て優しい・・・」

「和真さん、ケガのほうは大丈夫なんですか?私でよければまた治療させていただきますけど・・・」

「愛の力でバッチリですよ!!あっでもここが・・・まだ・・イテテ」

「まぁそういえば飛影さんはどちらに?」←きいてない

連戦連戦。

戦いの谷間の日には合流した女性陣が部屋におしかけ、賑やかな空気をふりまいていた。

いつもは笑顔でそこに加わっている蔵馬は最近少しづつその場から抜け出すことが多くなっていた。

今は飛影の気持ちも少しわかる。

この日も酒のにおいと煙草の煙と黄色い笑い声によって活況を呈する部屋をあとに

ドアをそっとすりぬけた。

自分のローテンションの理由はこまごまとしているものだ。

一つ一つは小さくてもそれがきっと積もったチリのようになり、

自分でもわからないような脳内の障壁になっているのかもしれない。

幽助から貰って以来、少し癖になっている煙草に火をつけながらホテルをでて

ぶらぶら歩き始める。

身体がうずくこと。自分のものではないような感覚がずっととれないこと。

誰かから誰かへの恋を目の当たりにしたこと。

戦いのツメの甘さ。

ほかの事はともかく、戦い方をもっと練らなきゃ、と独語して

煙草をくわえたまま道路から少し森へ入ったところの石に腰を下ろした。

この身体の疼きを解放してやれば、きっと何かがまたひらけるのか、

それとも取り返しのつかない事態になるのか。

深く考えようとするとその疼痛に邪魔をされて余計に考えに靄がかかるような感覚におそわれる。

そしてそれが酷く自らを苛つかせる。

幽助にからむ温子も、蛍子を意識する幽助も、雪菜に異常に甘い桑原も、

無邪気に桑原を癒す雪菜も、今の蔵馬は見たくなかった。

わずらわしかった。

後ろの木に背中をあずけて見上げる空は皮肉に青く、高かった。

「何やってんだよ蔵馬」

公園にいるチンピラのような格好をしていた彼に、桑原は通り過ぎようとしたときようやく気づいた。

盟王高校の秀才でいつもおだやかで計算高い南野秀一には珍しい崩したたたずまいである。

しかしその穏やかさの影には家族思いで情熱的な顔が潜んでいることを

今の桑原は多少なりとも知っている。

「・・・空を」

ふっと煙を吐いて桑原のほうへ向き直って言った。

「見てる」

「そんなの見りゃ分る」

「はは」

下を向いて眉根にしわをよせて笑う蔵馬に、ヘンな笑い方だな、と桑原は思った。

だからといって蔵馬の精神状態にまでは結び付けようもない。

「よかったですね」

「何が」

「雪菜ちゃんが来てくれて」

「ああそりゃもうな」

自然に笑顔になる桑原を無感動にちらと眺める。

「これからはもう桑原君にぜんぶ戦闘をまかせよーかな」

桑原は少し疑わしい雰囲気を感じ取る。どういうつもりでいっているのか。

本心?いやみ?それとも・・・

「それよかお前、名門盟王高校の優等生がタバコなんて吸ってていいのかよ」

「南野秀一のカラダにはよくないかも。でも中身は妖怪だから大丈夫じゃない」

「寿命ながいもんな」

「ちょっと縮めたほうがいいくらい」

「ははは」

ここしばらく、後ろめたさと好奇心とそして追慕のような感情にぐるぐると

さいなまれてきた桑原は、やっと普通に会話ができたことに喜びをおぼえていた。

オレは雪菜さんを幸せにしたい。雪菜さんが好きなんだ、やっぱりそうなんだ。

だからオレは気合入れて・・・

蔵馬の心の寒風には当然まったく気付きもできない。

それはしかしある意味仕方のないことでもある。

「オマエら浦飯チームじゃーん」

比較的人型に近い妖怪が4人、こちらを目ざとく見つけて近寄ってきた。

「何だあ?オレらに何か用か?」

桑原はすでに声を荒げて臨戦態勢をとる。

「べっつにぃーオレらがやんなくてもどうせ次の試合で殺されんだろオ」

「何だとお?!」

「やめなよ桑原君」

顔をくっつけるようにして相手を威嚇していた桑原に蔵馬が声をかけるが

今まで散々色々なところで逆シード的扱いをうけてきた桑原(というか浦飯チーム)が

語気が荒くなるのは当然といえよう。

「おっそっちの兄ちゃんは冷静じゃん。アンタ蔵馬だっけ・・・?」

「オマエ人間?半妖?妖怪にしちゃずいぶん妖気が薄いじゃん。 もしかして昔魔界にいた妖狐蔵馬?」

ターゲットがうつったようで妖怪たちは蔵馬を眺めながらにやにやと何かを考えている。

「オレ知ってるぜぇー極悪盗賊妖狐蔵馬!よく噂になってたもんなぁー! 押し込み先の妖怪は女子供でさえも皆殺しだってよ」

蔵馬の目と妖気がとたんに鋭くなる。

桑原はそれに気付いたが鈍い妖怪たちは薄笑いをうかべながら話し続ける。

「もっとえげつねぇのは色仕掛けでたらしこんだ男を部下にしてコマで使い捨てするんだろ? 銀髪の妖狐だもんなぁー男も女もホイホイひっかかるよな」

「あああれか?浦飯チームもおふくろさんも体でひっかけたクチか? 人間界でも要領いいじゃんーオレらにもわけてほしいぜ 人間界でうまく立ち回って甘い汁すってん・・・」

その妖怪は最後までセリフをしゃべることが出来なかったようだ。

口の中から血がどくどくと溢れ出している。

後ろの樹木が武器化して妖怪の口の中を突き刺していた。

「お前ら、よく喋るな・・・口をでかくしてやるからもっと教えてくれよ妖狐蔵馬の噂とやらをさ・・・」

「くっ蔵馬!待てっ」咄嗟に桑原は蔵馬を制止しようとしたが相手の動きに阻まれた。

「っのやろう!!」

その中でも背の高い、鱗と角の生えた妖怪が蔵馬にむかって突進してくる。

ものも言わずそれに向かって鋭い切っ先をくし刺し、振り向きざまに、

逃げようとした二人の妖怪の喉元を切り裂いた。

く、ら、ま、の3文字を言う間くらいの間に起きた出来事に桑原は呆然となった。

「蔵馬・・・お前・・・アイツらは逃げようとしてたぞ・・何も殺すこと・・・」

「ああ、ごめん。・・タバコなくなっちゃったな」

「・・・・」

返り血が蔵馬の唇について紅をさしたようなのが妙にコケティッシュですらあるのに。

だのに出てきた言葉の軽さに桑原は混乱した。

今まで青い空を見て穏やかに話していた南野秀一、残虐な妖狐蔵馬、

そのギャップと今聞いた話とが反芻され、

目の前にいる彼がひどく遠くて見知らぬもののように思えた。









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