考えてみると結構久方ぶりであるその墨色の姿は、

闇にそめかわる前の町の色には案外浮き上がって見える。

「わあびっくりした。どうしたんですか飛影こんなところで。」

「・・・・相変わらずいい性格だな」

「光栄です。でも木の中から人の家をのぞくなんてあんまりいい趣味とは思えませんが」

「気付いてただろうが。わざと人の名前大声で叫ぶのもいい趣味ともいえんだろう」

「何が?それはそうと折角来てくれたんだからお茶でもどうですか?」

「・・・人間くさすぎる・・・」

「人間ですから。」

しれっとそう言うと、蔵馬はすたすたと一旦部屋を出て行った。

飛影はそれを目で追うと少し息をつく。

蔵馬との会話はいつも自分を細い木切れの上を歩くような感覚に陥らせ、

その美的で剣呑な感覚を長く継続させることを望んでしまう。



高校生にしては華奢な手を慣れた風で動かし、蔵馬は手早く緑茶を淹れかけてふと視線をあげた。

「あれ、飛影ってお茶何が好きだっけ?」

「うまいやつ」

「うちには旨くないのはないですよ。旨い緑茶と旨い抹茶入り玄米茶と―」

「ああもう何でもいい!」

「あと旨いほうじ茶とフォートナムメイスンのアールグレイと・・・」

「・・・・」

おっと。

ちょっとやりすぎかな。

飛影の棘の増した視線を感じて蔵馬は唇をつぐんで言葉をとめる。

剣呑な空気が50%を超えないようにいつも寸でのところで止めるのが

蔵馬には非常に刺激的な娯楽であった。

(時々はかりまちがえるのもまた・・・)

出会ったときの実力はお互い五分というところだった。

相手の力を読み、考えを読み、行動を常に予測する。

その緊張感、そして連帯。

お互いを常に意識しあい、考えた結果の協定だった。

その緊迫感がなくなった今も相手の手の内を読みあうのがつい癖になってしまったのだろうか。

「で?今日は?」

「・・・お前 何かしているか」

「はい?」

「お前とオレはいい。だが足手まといの人間どもがこのままだったら確実にオレ達は大会で負けるぞ」

「そうだね・・・」

「オレは人間に足をひっぱられるなんてごめんだ」

「飛影がそんなこと気にしてるなんて意外だなあ。でもうれしいです」

邪眼のあたりを見つめて蔵馬は相手の胸裏をさぐりながらそれでもにっこりと笑って見せた。

「真剣になってくれてるってわかったよ」

「・・・で何をした?」

一気に飛影の胸中が見えて蔵馬は少し動揺して眉をつりあげた。

人差し指で下唇をなぞりながら言う。

「飛影は何か考えがあるの?」

「オレが質問をしている」

「何をしたって言われても。桑原君にトレーニングメニューを作って付き合ってあげたりしたけど。

でも正直これでOKなんてことは言えないし飛影にも何か考えてもらいたいと思って。」

桑原の名が出ると飛影の妖気が明らかに尖った。

ますます確信を強めた蔵馬はしかし同時に落ち着きも取り戻していた。

こんな場面は昔何回かあったような気がする。

デジャヴじゃないな・・・あれはたぶん髪が銀色だったころ。

「オレは知らん」

「またー。そんなこと言わないで考えてくださいよ」

すこし沈黙がおちた。飛影の声がひどく出しにくそうに低くなる。

「・・・おまえ・・・妖力あがったな・・・値いくつになった?」

「最近測ってないからわからないな。でも裏でいろいろ努力してるからちょっとは上がったかな。
飛影は?」

飛影の顔はややうつむいていて影になっている。

蔵馬の髪がぐっと下がって下からわざと覗き込むような体勢になると

飛影は俄かに立ち上がり、さっと窓に相対した。相変わらず表情は見えない。

「お前・・・あれはいつから・・・」

「何?聞こえないよ」

「いい。邪魔したな」

「飛影」

すばやく体をおこし、窓に足をかけようとする飛影に近寄ってその掌に触れる。

複雑な波長を描く妖気がさらに乱れた。

「知らぬが仏だね」

そういえば3年前。銀色じゃないな。髪は黒に近い色。銀よりもっと彼の服にちかい。

こんな空気の中にオレと彼がいたっけ。

「飛影、見てたのか」













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