泥だらけで鈍色




夏の終わりのにおいのする風が街の建物を隙間をかけぬける。

あんなに日差しの強さや容赦のない暑さを恨めしく思った舌の根も乾かぬうちに

もう肌にしみこむ風の温度に「あのまぶしさ」を懐かしくおもいはじめる。

そんな人間たちを半分共感半分違和感をもって今まで見てきたが

「それもまたおもしろい」と蔵馬は窓をあけはなしながら呟いた。

部屋の空気と外の雑多な匂いが混じり始める。

蔵馬は明日の予習のために英語の教科書をひらきながら、こんなわけのわからないことを考えつつ

体は勉強をしようとしている自分をおかしく感じていた。

(もっと考えなきゃいけないことがあるだろう?)



あの日以来、桑原は一度も蔵馬の前に姿をあらわしていない。

蔵馬の妖力はそして、あきらかに向上していた。

そう。「あの日」以来。



「何があったのかあの時のことが夢みたいで思い出せない。なんて。乙女だな」

自嘲で唇をゆがめながら蔵馬はようやく考えに焦点をあわせる。

暗黒武術会を目前に控えた彼らにとって、今最大限考えて、行動しなければいけないことは

能力の向上のはずである。

しかし。

一回桑原をうけいれたその後は本当に身体も脳みそも桑原に預けてしまったように

蔵馬に細かい記憶は残っていなかった。

(桑原君はどうだったんだろう・・・。)

自分ひとりだけが我を忘れる程に行為に没頭していたという仮定は

蔵馬をひどく赤面させるものだったが

いつもいつも自らの行為を頭の半分では冷静にみているような自分が

あのときどこにも存在していなかったことに不思議な驚きを感じてもいた。

「うーんなんか調子狂うな。」

まるきり英語に集中できず、椅子に体重をかけて身体を反らせてのびをする。

どこかの夕食の匂いをのせた風が蔵馬のコシのない髪をゆする。

突然ふってわいたように窓の外の木からの気配がそれと伝わり、蔵馬はこっそり笑みをもらした。

ゆるゆると窓に歩み寄って目をつぶって顔を夕風にさらし、

「ああ。それにしても。すごく妖力があがったなー。」

どどうと葉がざわめく。

「これなら飛影なんか余裕で勝てるかも。」

わざと一語一語はっきり喋り。

「でも飛影の良さは強さじゃなくってかわいさかなー」

ぴんっ・・・と気配が強まるのがわかり、蔵馬はいよいよおかしくなり

必死で笑いをこらえながら声をひときわはりあげた。

「寝顔なんかー!もうー!とくにーーー・・・」

どさ。



「お前 わざとやってるだろう」











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