自分の技術で名演奏家をあやつることができた指揮者のように気をよくして

背中からうなじをなであげると奴はあらぬ方を見つめ・・・イヤ、その先ははっきりと

いつのまにか開け放たれた部屋の扉を射ている。

今の「あ」はこの「あ」か!!

「くそ!!」と毒づきながら招かれざる珍客たちを素早く視界の端でとらえると、

部屋の外も入れて6人。囲まれた。

「おたのしみのとこわりーね」

扉に立ちはだかるようにしてガタイのいいのがニヤニヤ笑いながら下卑た言葉を吐く。

「キレーな銀狐独り占めってのはまずいんじゃねーか?」

オレは腕におぼえはある。

しかしオレのはあくまで盗賊の戦い方で、

こんな明るい部屋の中で6人の囲みを突破するのは中々難儀だ。

(オレとしたことが・・・何で気配に気付かなかった・・・)

決まってる。

目の前の御馳走の誘惑に頭トんでたからだ。あーー・・・

オレが後悔したり、策を考えたり、色々数秒で忙しくしている間、

当の銀狐は耳をピンと立てて目を丸くしているだけだった。

・・・のように見えた。

えーい!この疫病神!!

「お前らさ、コイツ男だって知ってんの?」

「関係ねぇなぁーぶっこむ所さえありゃどっちでもな」

ゲヘヘヘ、と人相にぴったりの笑い声をたてて皆さん楽しそうだ。

やっぱりこんなこといってもムダか・・・

だから蚤とヤクザはしつこくてキライなんだよーー

「黒鵺」後髪をひっぱられると思ったら、きょとんとした蔵馬と目があった。

「何だよ今忙しいのっ」

「コイツら何喋ってんの?」

ふとオレはさっきの会話を思い出す。魔界に落とされてコイツはいくつ月を数えた?

「だからな、皆さん一晩お前に相手してほしーんだって」

「手合わせか?」

「んーまー夜の方の」

「そーそーお手合わせ願いてーんだよコギツネちゃんv」

外野うるさい。

「それなら受けてたってもいいぞ」

「いやーこの人たち全員だから多分お前の身体持たないんじゃないかなーーむしろケツが・・・」

後ろの方のオレの独語を完全無視しやがって蔵馬はずいと一歩前へ出た。

「おっ」

「ひゅーひゅー勇気ある!」

「お前オレの番までぶっこわさないようにしろよーー」

とたんに色めき立って騒ぎ出す男達を一通り目を細めて見渡すと、蔵馬は何も持たずに腰を落とした。

手は空気を掴んでいるかのように中庸である。

「オレも男だ。売られたケンカは買わずばなるまい」

どこで仕入れたんだそんなセリフ、とつっこみを入れる前に、脂じみた好色な顔を押し付けるように

扉のそばのデカブツが突進してきた。

咄嗟にそいつと蔵馬の間に割り込んで、大きく剣を振りかぶったとき、

ちょうどその身体の影に隠れた形の片耳の妖怪の鎖鎌が蔵馬の頭上を円を描いているのが見えた。

「ちっ」

デカブツの斧を身を沈めてかわし、肩口に切りつけると同時に身体を反転させて叫ぶ。

「蔵・・・っ」

蔵馬は無表情にふわりと体を落とすと完璧なバランスでそのまま部屋を一瞬で横切り、片耳の肢をはらう。

よろめいた敵の頭上から流れるように踵を落として額を割ると、

どくどくと脈打つ傷口に手を押し当てて刹那、目を閉じた。

「オイッ蔵馬っ!」

部屋の外の皆さんが狭い入り口に殺到して来るのを家具を上手く使って牽制しつつ、

「何やってるっスキみてずらかるぞーーっ!」ドンッと腹に衝撃を感じると同時に

オレは部屋の端まで転がった。

口の中の血の味が生臭い。

「オレたちはさぁー、集団での戦闘が得意なんだよね。ここ狭いから遠慮してたけどそっちがそこまで 抵抗するならしょうがないね」

外の柱に凭れていた幾分小柄な妖怪がゆったりとした口調で宣言すると同時に、

残りの妖怪達がそれぞれ異なるが似たような形の武器を取り出した。

連輪躁術・・・昔オレも戦ったことがある、連続で交互に攻撃することにより相手の消耗を誘い、

極度に負けることが少ない武術。お互いがお互いを邪魔しないよう、

武器の形もそれに会ったものとなっている。

ちなみにオレのその時の勝敗は・・・言いたくねえ。

これは・・・ヤバい。

「くらまあっっ!!」

やっとのことで上体を起こし、倒れた男のそばにまだしゃがんだままの妖狐をオレは呼ぶ。

「気をつけろっっ・・・」

ようやく静かに立ち上がった妖狐はこちらを振り返ってバツが悪そうに笑った。

「悪い、黒鵺、絶対動くなよ」

「何?!」

その言葉は奇妙にカラカラと空気中に響いた。

(コイツが謝るなんて珍しいし・・・)

そして床がパキ・・といった。



その光景を、オレは今でも憶えている。

外は黒い森でぬばたまの闇。

床から生えた巨大で凶悪な魔界植物とそれに瞬時に食われた妖怪たち。

そしてその太くて毒々しい色合いの幹のそばに佇む、銀色の妖狐。

たとえ動くなと言われずともオレは動くことができなかった。

それは魔界でもなかなかお目にかかれない、凄惨で美しい情景だった。

「ごくろーさま。もう帰っていいよー」

蔓をにゅるにゅると動かしながらその奇怪な植物はゆっくりと床に、いや地面に沈みこんでいく。

「お前は・・・」

「今まで見たことある魔界の植物なら生き血を使って呼べるんだけどさ、いつも何が来るかコント<ロールできないんだ。 今日は魔界ホタルブクロだったけど。」

「植物を・・・呼べる?」

「うん。魔界のホタルブクロってあん中にいろいろ入れて養分にしたり遊んだりするんだぜ?おもしろくない?」

まるで自分の友達の話をするように目を細めて楽しそうにしているヤツを見て、オレは驚愕していた。

「あ、遊ばれたくはないな」

「そーか?」

・・・コイツは・・・ 支配級!クエストクラス

まだ能力は未熟ながら、魔界に落ちて一年もたたないうちにこのパワー。

すげえ。

売り飛ばすのはやめだ。(つーかコイツと戦ってもかなう気がしねえ・・・)

コイツと一緒にいれば、何かおもしれーことが起きそうな気がする。

「あ゛っ」

「どーした?」

「やべっ部屋こんなぶち壊しちまって・・逃げるぞっくらまっっ」

「んーーー」

「んーじゃないっはやくっっ」

なかば奴を引きずるようにして表に走り出しながら、俄然オレは気になってきた。

「さっきのセリフ、どこでおぼえたんだ一体・・・」

「あーあれ?なんかどっかのTVでみたよーな気がする。かっこいいだろ?」

ぷぷっと思わず笑いをこらえきれずにいると蔵馬がじーっとオレの顔を見て言った。

「やっぱお前、おもしろい顔してんなー」

ほっとけ!!



<薄墨をとかして・完>







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