よっこいしょっとばかりに上半身を起こすとあたりは既に夜の気配が強い。
全く大儀だ。
元来寝っころがっているのが性分だというのに。
しかし何かの組織に属して上官の命令通りに何かしたり(「何か」ばっかりだな・・・)
毎日ちゃんちゃんと商売したり、そういったことは余計できそうもない。
そういうのは几帳面なやつがやるもんだ。
何だかんだいってやっぱりオレはこの生業に向いているのかもしれない。
まぁ一月に4日くらい働きゃあいいわけだからな。
伸びと同時に羽を思い切りひろげてひとつ首をふってみる。
よっし、ひとつ、稼ぎに行きますか。
今日は月がない。
魔界の新月は10日に一度。この世はオレに味方している。
墨を流したような空気の中を木をかいくぐって行くと、
高い塀に囲まれた堅牢な建物に突き当たる。
何回か下調べはしてきている。
パースペクティブはオレの頭の中で確定済み。
裏にまわり、門に脚をかけてひらりと飛び越え、
オレに気付いた警備の奴らを軽くのす・・・つもりだったが。
いない。
どういうことだ?
今日はやけに無用心じゃねーか。
元々ここは武器商人の邸宅で、相当あくどい商売をしているらしいから
ガードもかなり厳重だったはず。(ま、オレにはメじゃねーけど)
奥から明りがもれている。
オレの頭の中でハテナマークが勢いよく点滅してそれが警告マークに変わる。
何か、おかしい。
その時鼻をついたのは血の臭い。
「お・・・」
建物内に足を踏み入れると2,3人の警備員
(つってもヤクザな下っ端みたいなのばっかだが)
がわきに転がっている。
脇腹や腕がかなり派手にぱっくり。
「まーまー歩きやすくしてくれちゃって・・・」
進むごとに転がってるヤツも増えてくる。
スカッと大立ち回りを演じるオレの予定をどーしてくれる。
(こりゃ、同業者かな・・・)
2,30人のガードマンよりタチが悪そうだ。
半年ぶりくらいにオレは全神経を研ぎ澄ました。
ぴょこ。
そのとき最奥の右隣の部屋の長持の陰から何かが飛び出た。・・・尻尾だ。
ふさふさとして、下毛がびっしりとしている実に立派な銀色の。
冬に襟巻きにしたらマジあったかそうだ。
それがかなり愉快そうにぴょこぴょこゆらゆらとオレの視界から出たり入ったりしている。
「化け狐め・・・」
思わず口元を緩めた瞬間、ざざっという音とともに後ろから声がした。
「ゆっくり手あげて。こっちを向け」
あとから風がオレの左頬を掠めて駆け抜けた。
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