赤と緑




(空はこんなに青いのに  どうしてオレの心は暗いのか)とキテレツ大百科のようなことを

考えながら桑原は盟王高校へ向かっていた。

今日もこれから毎日続けている霊能力の修行である。

彼の気分は目前に迫った暗黒武術会と、戸愚呂が生きていたことに起因している。

しゃーねえ!あれこれ悩むよりも行動が一番!と桑原はひとつ伸びをして息を吐き出す。

長ランと大柄な体格は道行く人々を振り向かせるのには十分だったが

彼の顔においては凄みよりも愛嬌の方が優位を示しているように見える。



蔵馬はいつものように教室のまどから校門の方に身体を向けていた。

わざわざ目を向けていなくとも気配で彼が到着したことくらいはさとれるのだが

桑原が校門に立つときの盟王の生徒の反応がおもしろいのだ。

「ヘンな顔」「へんな学ラン」などと囁かれているのが距離を置いていても聞こえてくる。

それには蔵馬も同意しないでもなかったが(!)彼には何より、外見と性格の優しさとの

不調和が一番興味をそそられる所であり、

そして桑原という人物に好意を抱く要因でもあった。



「おはよう 桑原君」

「よお。お前な、水商売じゃねぇんだからこの時間におはようはねぇだろ」

「そう?桑原君が眠そうだったから」

「ああ?!」



蔵馬と会うと一秒後にはヤツのペースだ。

そう考えて桑原はため息をついた。

顔が良くて頭も良くてしかし優しいのかクールなのか人間なのか妖怪なのか

桑原ははっきりいって蔵馬のことをよくわかっていない。

(でも オレの修行に付き合ってくれるなんて案外いいヤツなのか・・・?)

出会った時から こんなヤツがこの世にいるのか?と思うほど

不可解な蔵馬の存在は桑原にとって非常に感心を惹かれるものだった。

妖怪でありながら何故人間に味方するのか。何故普通の学校に通っているのか。

あ。でもそういや 飛影もへんなヤツだよなー・・・



「何を考えてるの?桑原君」

名を呼ばれて我に返った桑原は

脳みそに浮かんでいたそのままを思わず口に出してしまった。

「飛影ってへんなヤツだよなぁ」

「どうしたの?急に。確かに妖怪の中では変わってるかもね。生い立ちとかおもしろいし。」

「え!なんだそれ!オレはしらねーぞ!」

「まぁプライベートなことだから本人に直接聞いてね。オレは話せません」

「うわぁ!気になる!!教えてくれよ!!」

「ダメ。」

唇にひとさし指をあてて(オフレコ!)と笑う蔵馬を何気なく

かわいいなー・・と思ってしまった桑原は自己嫌悪に陥った。

この繰り返しは今までも幾度となく桑原は体験しているものだった。

実戦形式での修行中、髪に触れてしまいその予想以上にやわらかな感触に激しく動揺し、

そしてその後やはり自己嫌悪の海にはまったのだった。

(オレ、いくら女にもてねーからって・・・)

しかし男でも女でも発情してしまう青少年期の健康な男子にとって

中性的な蔵馬の存在は少々危険であった。



傍らを歩く蔵馬にそっと目をやると、放課後のまだ明るい日差しのもと、

彼はうつむきかげんで少し楽しそうに、そして少し何かを考えるような表情をしている。

上から見下ろす格好になる桑原はついつい道で出会った猫をみるように観察してしまう。

(あ?狐か。)

男のわりには白くて触ると気持ちよさそうな肌、長い睫毛、いまだ少年らしい丸みのある頬、

うっすら青みがかったまぶた そして唯一、実際の感触を知っている長くて柔らかい髪。

桑原のまわりの男には存在していないものばかりだ。

そしていつも桑原は彼女のことを思い出す。

彼女の手はいつも冷たかった。睫毛は濡れていたし、肌は透き通るように白かった。

(よく考えると全然似てないっつの!なんでいつも思い出しちゃうかなーチクショー)



見ると蔵馬がこちらをおかしそうな顔で見上げている。

「そういえば桑原君って」

「ん?」

「いつも修行の後オレが銭湯に誘っても来ないけど」

「・・・・」

「・・・・臭くなるよ?」

「だー!いいんだよ!男は臭くてナンボじゃー!」

「ぷっ。なんだそれー 今の時代の人じゃないねー」

「俺は俺の道をあるく!ゴーイングマイウェイー!!・・・つか、俺臭い・・?」

「ううん。全然。桑原君のいいにおいがする。」



・・・なんていうことを言うんだ。

蔵馬の鈍感め!大体いつも銭湯なんかに誘うな!!

さわやかな風とは、裏腹に学ランのなかが汗だくな桑原と

蔵馬はいつもの修行場の森の中へ足を踏み入れた。







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