金曜日をこえた向こうから2




(RIO'S SIDE)



先天的に人の役に立ちたいとかいう奴っていると思う。だから当然逆もまた真なり。

おれはフェラチオがきらいだ。

されるのはなんか落ち着かないしするのはめんどくさい。

世のオヤジどもは何が楽しくて人にさせたがるのかわかんねぇといつも思う。

ラテン語なところもバカらしい。

昔から人間のやることなんて何一つかわってないらしい。



―寒い。髪をらんぼうにひっつかまれる感覚  荒い息遣いと汗と血と汚垢のにおい

また繰り返される悪い夢見におれはその日学校でも始終不機嫌だった。



「李央 帰りマックいかね?」

後ろから話しかけられて寄せてた眉ねをややほどきながら振り返る。

「ああ ごめん 今日ムリ」

「そういやお前、この前の恵里女子のオンナにあった?」

「うん もうヤった」

「うわーさすが鬼畜りお!付き合う気なんてねーんだろ?」

「そうだねぇ」

「お前これで今年何人目だよ」

「さあ?」

クラスの奴なんてバカだから適当に笑って相手しとけばいい。

まあそれに気づいたのは中学んときだけど。

おれはずっと変わったガキだっていわれてた。

友達と遊ぶのがつまんなかったし色んな数あそびとか地理おぼえたりするのが好きだった。

何よりおもしろかったのは父親が持ち帰る資料を読むことだ。

父は俗に麻薬Gメンってよばれるやつで、本来国家秘密級の資料なんだろうけど

8歳やそこらのガキがそんなもんをしこしこ読んでるとは

夢にも思ってなかったらしい。

反面、学校はつまんなかっただけじゃなくて生きにくい場だった。

教師は協調性がないとかうるさいし、

まわりのガキどもはなにかと煩わしいちょっかいをだしてくる。

それが変わった・・・というかおれが変わったのはまああの夢の事件のせい…

おかげと言える…。

―がムカムカする。

「お前のそとづらに騙されまくって女ってバカだよな」

「何言ってんの おれは中身も純情じゃん」

「うわーサイテー」

ヤツはしつこくおれを求めた。

そのときおれはおれの価値がはじめてわかった。

必要なのは真面目でキレイな外面と自分のやりたいようにやる頭脳。

そんな簡単なことだったんだ。

「椎名、ちょっと」

教室の後ろの扉からバスケ部の2年生がこっちを差し招いてる。

ウザイけどおとなしい一年生としては行かないわけにはいかない。

ここんとこ毎日いろんなクラブに勧誘されてる。なかでもバスケ部のこの2年、

なんてったかな・・・このセンパイはしつこい。

「どーだ決心ついたか」

「おれ、ダメですよ。運動神経よくないし」

「だいじょーぶだって。初心者多いから!親切指導をモットーとしております!」

男子校だなー、とちらとゴツイせんぱいの顔を見上げて思う。

どさくさにまぎれて頭をぽんぽん叩かれた。

「背も伸びるぜ」

「センパイ」

「な、なんだ」

「一緒にバスケやるより、外でセンパイのかっこいいプレイみてたいんです」

「そ、そか・・・」

「はい」にっこり。として頭をさげて

その青春の血まんまんな手からのがれて再びクラスにもどることに成功。

そっくりなんだよなー。みんな、目が。あいつとかあいつとか。あいつ、とか。

恋愛、不倫、セックス。それに何の意味があるのか、全くわからない。

それ以下でもそれ以上でもないよな。

おれにはもっと自分順位で上なものがある。

悪いけどあんまりおもしろくないことはしたくない。

ピピピ・・・

電話がなる。きっとお大尽がせかしてきているんだろう。



学校から離れたところでひろったタクシーで新橋の料亭につくと

ドビーはもうご満悦で席についていた。

まわりの強面が一斉に座をあける。こういうの、いつもなんか気持ち悪い。

ドビーっつーのはハリーポッターにでてくるへんな妖精?みたいのに似てるから

おれがつけた渾名で本人はなんかガイジンと勘違いして喜んでいる。

しょーもないオヤジだ。

「内示がでたよ!喜んでくれりーくん」

小学生みたいに喜んで箸を振り回している。ほんとしょーもない。

「おめでとうございます。いよいよ次官ですか。これからも一層よろしくお願いしますね」

努めて笑顔を作りながらそれだけでも高そうな徳利を手に取ると

いきなり肩を引き寄せられた。

酒がこぼれそうになって思わず手をつっぱる。

「酌なんかいいから!オメデトのちゅーをしてくれぇ」

奇妙な形のシワのよった鼻を思いっきり近づけて酒臭い息をたっぷり吐き出すから

思わずむせそうになる。

「皆見てるからやですよぉ」

「ん?全員お前の下のやつだろう?気にするな」

「んんっ」

おれはまだ徳利を持ったままだっていうのに半ば身体を

斜めにされてドビーは唇を押し付けてくる。

思わず酒をこぼすとすかさず周りの男の一人が拭きに来た。

「西野様、ここではそれくらいに」

低い声で、でも強い意志を感じられる声で助け船を出航させてくれた。

えーと、確か皆川とかいう若いけどナンバー3くらいの人だったか。

よく怒られるけど相変わらず組織の人間の名前とか地位とかがよくわからない。

覚える気ないけど。

彼は色の濃いメガネをしてるので表情がわからないし余計に顔もわからない。

こんなんで憶えるなんてムリだ。

普段は威張っているくせに実は組織とかヤクザとかいうものが怖いらしいドビーは

ぶつぶついいながら一旦はおれを解放してくれた。

口の中が気持ち悪い。

そのうちばーっと芸者さんが入ってふたたびドビーはご機嫌になったようだ。

やっぱりプロはすごいなぁ、とか思いながら上品にだしのきいた煮物に箸をつけていると

皆川がついとそばに寄ってきた。

「社長からの伝言です。9日にあると噂されている手入れの情報を

西野様からいただくようにと」

「わかった」

ウルトラマリンの香りがする。短くかりこまれた髪をかたそーとか思って見上げたら

眼鏡の奥の皆川と目があった。

いつものごとく、日本人にしては彫りの深い眼に巧妙にかくされた棘を感じる。

ちくちく苦い棘。

今回りで適当に飲んだり食ったり芸者と戯れている奴らはおれのことを

社長の愛人兼秘書みたいに思ってるみたいだけど

この男は最初っからおれを警戒していた。

おれの立場を見抜いている。だから気に食わないらしい。

普段はそんなそぶりを見せないが、その目つきははかりしれない。



下っ端たちを適当なところで帰して、ドビーと一緒にヤツの車に乗り込む前に

皆川は「お気をつけて」と通り一遍のセリフを言っていた。

「ありがとうv」と満面の笑顔でいってやったらなんだかとてもいやそーな顔をしてた。

反芻してるともうホテルに着く前からドビーのセクハラがはじまっててウザい。

部屋はいつものジュニアスイートでスイートじゃないあたりが

こいつのセコさと器をあらわしててなんか笑える。

部屋に着く前からベタベタしてきてるヤツの手をとってソファの肘掛に導く。

「りーくん♪ 2週間ぶりかなー?ドビーさびしかったでちゅよー」

「まって、待ってってば。おれもっとドビーとお話ししたいよ」

「んーー?何をお話ちちたいのかなあ?」

酔うといっつも赤ちゃん言葉になるのは癖なのかな。

正直ドン引き。

「なんか、近々おっきい手入れがあるって聞いたんだけど、ほんとう?」

「んんー?ドビーは知らないなあー それよりりーくんのお手手はほんとにすべすべでしゅねーv」

しつこく二の腕の方の袖の中にまで突っ込んでくるやつの手を振り払って

おれはいきなり立ち上がってやった。

「おれ、帰る」

「まままてっ待ってくれりーくん!」

「おれの話、ちゃんと聞いてくんないんだもん。おれ、そういうのやなんだ」

すたすた、と広いリビング側をつっきって扉の前にたって一呼吸おいてやると

後ろから走ってきたドビーがけつまずいておれの脚をつかむ。

ワイシャツはよれよれだしネクタイはあっちこっちにひっかかってるし

みっともないことこの上ない。

思わず笑いがこみ上げてくるけどここで笑ったら元も子もない。

「わかった、わかったよ 最近あまり実務レベルの情報が入ってこないんだホントだよ! 今度、絶対今度聞いておくから!」

「ホントに?」

「ああ、約束だ」

「じゃあ、ゆびきりだね」

ゆびきりげんまーんとかしながらがんばって微笑んでちゅーをしてやった。

顔がなんか攣りそう。

「ああそういえば」ドビーがふいに言葉をつなぐ。

「椎名局長が家族に身辺警護をつけるっていう話を小耳にはさんだよ」

家族って・・・おれしかいないけど。なんだそれ。

「今度藻日事件の犯人が出所してくるらしいからねえ。君も悪い子だね。お父さんに隠し事がいっぱいじゃないか?」

「ドビーもでしょv」

犯人の出所。逆恨み。

あのときの記憶が喉元までよみがえりそうになる。

「身辺警護ってプロの人とかかなあ?」

「いや自分の部下をつけるらしい。残業扱いにするんだろうな」

目があらぬ方を見てくるくるしていたらしくまぶたをべろーんとやらしく舐められた。

「夏の味がするよ・・・何かまた悪いことを考えてるんだろう?いけない子だなありーくんは」

「だってプライベートがなくなっちゃいそうでそしたらドビーに会えないなって」

「かわいいなありーくん!食べちゃいたい!」

ホンキか嘘かわからないけどでかい声でネジがゆるんだみたいにドビーは

おれをひきずり倒して乱暴にシャツをめくりあげた。

腹から胸にかけて執拗に舐めまわされてなんだかむずむずしてくる。

でも脳みそはそんな身体の反応を無視して脳内通信をしまくっていた。

ボディガード?父の部下ってことは麻薬取締官のペーペーか。

放課後四六時中張り付かれちゃたまんないな・・・どーしよーかな・・・



携帯のバイブがうるさいので適当に手をのばすとへんなしわしわしたものにあたった。

ああそういえばここホテルだっけか・・・

しわしわしたもの―ドビーの顔―を乱暴におしのけながら

携帯をつかむと間一髪でまだ留守電に変わる前。

「―はい」

『相変わらず不機嫌全開だな李央』

「夜はふつー寝てる・・・」

『まぁそういうな。頭はクリアか?』

「さーね」

『さっきもらったメールの件だけどな』

おれをひととおりなだめて?からさっさと用件にはいる。

社長のそういうとこはあんまり嫌いじゃない。

ムダ話をぐだぐだと続けられるほうがイライラするから。

『お前につけられるのは入野義道。入省2年目の24歳でお前のパパの直属の部下だな』

”パパ”っていう単語がやたら皮肉っぽく強調されて聞こえるのは気のせいか。

社長は普段からそうやっておれをからかうのが好きみたいだからな・・・

それにのってやっていやがるふりをするのも大変。

足音を忍ばせて声がもれないようにトイレに入る。

『今は?ヤツといっしょか?』

「そーだけど。それよりはやく続き」

『今日はどんなだった?』

「相変わらず悪趣味だね。そういうプレイすきなわけ?」

『ヤキモチやいてるんだよ。わからないかなこの男心』

「人のエッチの話きいてオナニー?ただのヘンタイじゃないの。それより」

『わかった。絶対にヤツには会話きかれるなよ』

「わかってるよ」

なんだかんだいっても抜け目ない。若いうちに組を束ねただけのことはあるのかも。

美食家のわりにお腹もでてないし。

(それはナルシストだから鍛えてるだけかもしれないけど)

『1課の中で入野が担当しているのは情報処理だ。2課3課からの情報もまとめて管理している。』

「確かなスジ?」

『ああ。人事情報、職務情報もろもろだそうだ。大学時代から情報処理データベース構築を研究していたらしい』

「何がいいたいかわかった」

『西野は上にいきすぎた。実務レベルの話が伝わるのが遅すぎる』

「じゃあもう会わなくてもいいわけ?」

『いや上にいったら行ったで使いようがある。』

「・・・」

『何だ』

「悪いけど、ある程度はおれ、自分の考えで動くからね」

『わかってるよ。あと、一週間後くらいに新しいブツの鑑定がある。お前にも頼みたい』

「それは楽しみだね」

『そのあとも楽しみだよ。ホテルとっておこうか?』

「もう切るよ」

一方的に電話をきってもう一つのベッドにうつって中にもぐりこむ。

シーツがひんやりしていて手を動かすたびに気持ちがいい。

組織には必ず現場と上、二つの側面があって両者は相容れない。

その溝を利用してやるのが組織に入り込むコツ。

上は現場の意見をきかないし、現場は上に報告を怠る。

政府もヤクザもそれはあんまり変わらないなーー・・・

ふあ、とあくびをしておれは眠りにおちた。こういうことは考えすぎない方がうまくいくから。



月曜日の朝、

「高校の前に身辺警護の者を待たせてある。入野義道という私の部下だから安心しなさい」

という愛情たっぷりな父親からのメールをうけとった。

身辺警護のわけは昨日とっくりと電話で説明された。

確かに父親にとっては心配だろう。

2年前の記憶がおれだってまだ夢ででてくるくらいなんだから。

このところ一ヶ月くらい父は家にまったく帰ってこなかった。

新しい件にかかりっきりでそれから解放されたらまたよろよろしながら帰って来るんだろう。

母親がおれが3歳のときに死んでからずっとこういうサイクルで暮らしている。

最初のうちは面倒をみてくれるベビーシッターや家政婦を雇っていたが

小学生にあがってからは全て一人でやるほうが気楽になって断ってもらった。

おれの部屋にあやしげな本や薬品がいっぱいころがっていても

父親はまったく気付いてもいないんだろう。

おれにしては都合がいいわけだけど。

社長からの指示がないときにはおかげで好きな薬品の研究に没頭することが出来た。

おれの興味のあるのは人を操作できる薬。

現在の麻薬と呼ばれる一連のものはある程度その中毒によって人を操作できるが

おれの目指しているのはそんなものではない。

健康なままでこちらの思惑通りに人間を動かす。操る。

そういうものが作れたらどんなにかおもしろいか。考え出すとふるえがくるほどわくわくする。

そしてその人体実験となるのが麻薬を売買している巷の人間で

それには組織の協力がどうしても必要というわけ。

薬剤の組み合わせをいろいろ頭の中でシュミレーションしながらカバンをしょって

校門まででていくと似つかわしくないスーツ姿の男がいた。

「入野さん?」ととりあえず控えめに声をかけてみる。

今日は恵里女子高のやつらが待ち伏せてなくてよかった。

振り向いた男はまぁ、何の変哲もない普通の若いサラリーマン(頼りなさそう)といった

風貌で、何か考えていたのかおれをみてすごい目をぱちくりさせている。

おれの全身、腕から脚から顔、といったふうにいそがしく視線をさまよわせているので

けっこう好感触?といったところかな?

ふとんの上で変な格好とかさせられても平気だけど日常の中で

あんまりじろじろ見られるのはなんか恥ずかしい。

ちょっと身を縮めて

「僕、よく父に似てないって言われるんです。李央です。いつも父がお世話になってます」

といちおうヨイコの挨拶をした。

それでちょっとは相手の羞恥心を刺激したみたいで彼は急に照れくさそうに言葉をついだ。

「あっそ、そうだね、似てないね あっご、ごめん・・・」

その様子がおかしかったので思わずちょっと笑ってしまった。

なんか人のよさそーな人だなあ。

女性経験も少なそうだし、ましてや男となんてないだろう。

これなら楽勝かな?

一応少しは考えてみた5日間計画があるのだがこの手のタイプは一気に畳み掛けた方が

効果的かもしれない。

単なる出たとこ勝負だけど・・・

とにかく一日のうちで接触時間を多くとることだ。

そしておれのことよりまず相手を持ち上げて、楽しませてやって、

あとはちょこっとスキンシップ。

おれの薬が完成すればこんな苦労することないのになぁ・・・

ふう、とちょっと横をむいてため息をついてしまった。



代官山に居る間中、入野のけっこうじっとりした視線を横顔に感じていたので

今日はわりあい成功と言えるかもしれない。

さようなら、と言って家に入る瞬間、何ともいえない顔をしている彼をみてしまった。

純なだけにめんどくさいこともいっぱいありそうだな・・・

靴を脱ぎ散らかして部屋に入ると今度は皆川から電話。

「・・・何」

『社長より李央様の帰宅の確認をと』

「それより藻日事件の犯人ってさあ、どこの組織?」

『さあ・・・私にはわかりかねます』

「じゃあさっさと調べてくれって社長に伝えて」

『李央様』

「ん?」

『一度言おうと思ってたんですが』

「うん」

空気がふいに不穏分子をはらんで重く、敏感になる。

皆川の声が低さを増してびりっと耳にひびく。

『アンタが何を企んでるが知らないがいつまでも社長にとりいって やりたい放題ができると思ったら大間違いだぞ』

「うわぁ、こわ」

『アンタをどうかすることなんて俺達にとってはカンタンなんだ』

「あんたはわかってると思ってたのにな。社長がおれにホンキで惚れてるなんておれが思ってるとでも?」

『・・・』

「おれが利用価値があるから社長はおれが気に入ってるんだよ。そのくらいわかってる。でもね」

ちょっと深呼吸してからゆっくり言ってやる。

「おれが行方不明になったり死んだりしたらそれは皆川サンの仕業だよvって社長には言ってあるからv」

『な・・・っ』

「大体2年前の事件だってあれ皆川サンの部下でしょお?奴がおれを誘拐したりしなければ おれが社長と知り合うこともなかったのに」

『・・・・』

「わかってるよ。あんたは忠義に篤いからガマンできないんだよね。でもとりあえず今はおれのお守り。社長のためにもがんばって」

言いたいことだけいっておれは電話を切った。

まぁいつか言われるとは思ってたけど

頭のいい幹部ほどおれを疎ましく思っているのは一目瞭然だからな。

さてと、今日は捜査局の父のパソコンにハッキングして直近の情報を洗いなおすのと

あとは学校で考えていた薬品の組み合わせを試す!

基本的に一人で好きなことをしている時間が一番幸せ。

夜は長いし、それを考えると急にわくわくしてきた。がんばるぞ!



おれは中学2年だった。

あんまり成長が早くなかったおれはまだ160センチくらいしかなくって

やせっぽちで私服でいるとよく女子に間違われた。

いつも家にいない父親のかわりに夜切れてしまった電球を買いに出たとき、

ふいに後ろから声をかけられた。

「椎名って家わかるか」

なんだか失礼な響きを含むその声に「うちですけど」といいながらむっとして

振り返ったらいきなりハラに一発いれられて車に連れ込まれた。

目が覚めたらなんだか典型的な誘拐ってかんじでおれはタオルを噛まされてて

縛られて転がされてて、おれをさらったヤツは痩せ型の中年(よりちょっと若い?)で

頭とかはきれいに坊主だった。

おれ相手にずーっと自分がいかに不幸か、みたいな話をしてて、

そして最後は絶対に父の悪口になり、お前は親父にちっとも似てない、なんで

そんなにキレイな顔をしてやがるんだ、とかいっておれを殴って

そのあとそいつの性器をくわえさせられたり強姦されたりした。

3日くらいその繰り返しでいい加減死ぬかもって思った。

後から聞いた話だと、犯人は麻薬中毒者のヤクザの下っ端で、

うちの父親に5年前に検挙されたのを逆恨みして出所後、

子供を誘拐しようと計画したらしい。

おれを連れ去ったあとに父に脅迫の電話をして全てが露見したわけだけど

所詮は無計画な犯行で立てこもった郊外の工場跡はすぐ包囲されてしまった。

包囲されている間中、自分は組織のために麻薬を売ったことや

社長にいかに忠誠を尽くしたかとかをまくしたてているのでおれはふと

その組織ってものに興味を惹かれた。

(社長に李央はバカなのか利口なのかわからんっていまだによく言われる)

そこで、後で社長にあわせてくれれば今この場から脱出させてやるっていう

取引をヤツにもちかけた。

人質が協力すれば警察の包囲を突破することも可能だし、一旦包囲を抜ければ

おれの頭には日本全国の地理がばっちり入ってる。

抜け道を辿って振り切ることが絶対にできる。

幸いにもヤツとおれは警察をふりきって組織の人間に会うことができた。

どうやらヤツはすぐ殺されたらしいが、

椎名局長の息子ってことで組織もおれの処遇を考えあぐねたらしい。

結局社長と面会しておれたちはいろいろな契約を結んでおれは無事に家に帰された。

今も別に思い出しても起きているときは何も感じないが、

ヤツと二人きりだった3日間はまだ悪夢となってあらわれる。

なんでだか、ヤツは最後まで異常におれに執着していた。

組織の幹部に会っているときでさえ服の中に手をつっこまれたりしていたので

幹部連中が呆れかえっていた。

そのせいだろうか。

今でもおれは誰と寝たって何をしたってあれより悪いことは起こらないと自動的に思える。

だから何でもできる。誰でもへいき。

何にも感じない。



会って話しているうちに入野は異常な面食いってことがわかった。

それを指摘してやったら「李央は異常に甘いもの食いだ」とか寒いことを言っていたけど。

日をおうごとに入野の目つきが男くさくなってきているのがわかる。

肌にふれるたびに瞳孔がひらく。

おれははっきりいって自分の容姿なんぞに興味はあまりない。

おれの興味があるのはヤクの研究と地理、あとは甘いもの、かな?

ドビーや社長、組織的につきあいのある議員とかが身ぎれいにするようにっていって

服をわんさと買って送ってよこしたり、強引に美容院に定期的につれていかれるせいで

人並み以上には清潔になってるけど、

放っておけばおれなんて研究に没頭して髪なんて伸び放題になるかも。

社長は「容姿は武器だ」っていっておれの不精を嘆いている。

彼らはいつもキスしながら「この細い腕が好き」とか「しみひとつない肌が好きだ」とか

「真っ黒でさらさらの髪とでっかいおめめが好き」とか

一体何が本当なのかわからないことをつぶやいている。

リップサービスのつもりなんだろうけど大してうれしくもないっていうのが本音だ。

李央の作った薬はすごい!って言われるほうが100倍うれしい。

それはともかく、今日は金曜日。入野もそういうのに価値をみとめる男らしくって

視線がさっきから横顔にひしひしといたい。決戦だな、とひそかにおもう。

あとはキッカケだけだ。幸い?雨が降りそうだし、ボーイズビーみたいなこういうベタな

シチュエーションは男は大概好きだしね。

ぱた、ぱたぱた・・・

やっぱり雨が降りだした。濡れ鼠になってタクシーもひろえない。

「あそこ入ろうよ」微笑んで向こうを指差す。それが最終決戦へむけてのキィワード。



あのあともう少し入野について調べてもらった。

やはり情報管理を一手に引き受けていて、まわりの現場捜査員との連絡も密。

彼を懐柔できれば局内にひとりスパイを置くのも同じだ。

父のパソコンにハッキングをかけなくてもすむ。

父はそれに昔気質のところがあるから時々重要な情報がインプットされていなかったりして

今ひとつコンピューター管理がなっていないところがある。

信用しきれなくて今まで何度か危ない橋を渡った。

濡れた服を乱暴に脱ぎながら入野に身体を預けて考えを巡らせていると

後ろから手をまわしていた入野がタオルの上から

乳首の先におずおずとふれているのに気付いた。

胸全体にあてがわれた掌がものすごく熱い。

むこうから何もアクションを起こしてこなければこちらから

何かしなくちゃと思っていたところだったのでやや驚いた。それを感じてると勘違いしたようで

今度は耳の後ろに唇を這わされる。

ややひんやりした空気にあてられた冷たい髪と

熱を帯びた唇の温度の対比で少しぞくりとする。

唇は尚も左へむかって移動している。

くすぐったいのをガマンしていると涙がでてきた。

んっ・・・と声をだしてやると「気持ちいいのか」というかわりに

「抵抗しないのか」と聞いてきた。

どこまで平和主義なんだこの男は。

というより自分に自信がないのか?仕方ないので涙をためたまま、首だけ振り向いて

べろちゅーをしてやる。

反射的に目を閉じると、涙がいっぱいあふれでて入野の顔にもかかってしまった。

入野は舌をからめて激しく貪ってきた。

後ろから抱きすくめられている形なので急激に腰のうしろに異物感を感じる。

ズボンが破けないかちょっと心配になる。

ぷはっってかんじで顔が離れたので(というかおれも首がちょっと痛い)

苦しそうにしながら「やめないで」と言ってみた。

こういうときに男が喜びそうなことは一通り社長にしこまれてる。

それにいろんなヤツで実験済みでもある。

入野のズボンの下は今まで以上に元気になったみたいだから効果はあったようだ。

彼は勢いに任せるようにおれのジーンズと下着の隙間からペニスを握りこんできた。

意外と積極的でびっくり。

ここまでされるとさすがにおれも気持ちよくなってくる。

息をつきながらずるずる座り込むとすでにデニムと下着は下までおろされていたみたいで

裸の尻の下に直に相手の性器を感じる。欲望を見せ付けられたみたいだ。

ここまでぎりぎりのくせにまだ入野は自信を持てないみたいでなおも

「いいのか」と聞いてくるからやっと身体を回転させておれは彼に向き合った。

今度は控えめに瞼に口付けて誘ってみる。

「僕・・・はじめてなんだ・・・入野さんみたいな・・・男の人と・・・」

「オレもだよ」

まぁ当然だろうなー。

ということはおくびにも出さず

「こわいけど・・・でも大丈夫だから・・・」とがんばって笑ってみた。

正直、こわいのは本当。

慣れてないヤツは完全に女扱いでいきなりぶちこんできたりするから

始末に悪い。イチから教育しないとならないのでそれも面倒だ。

とくにこんなに最初からパンパンにされてちゃ、一度手か口で出してやらないと

こちらの身がもたないかもしれない。

でも入野はまぁおれの言葉を真に受けて健気な部分しか解釈せずに

顔を舐めまわしたあとおれの腰を掴んで「くっついてるだけでいい」とか言う。

おれもそれでもいいけど・・・

でもダメ。最初でしっかりおれの味をおぼえさせないと。

おれの中、処女なんかとは比べ物にならないくらい気持ちいいらしいので

それを大いに利用しないと。

「僕は最後までしたい・・・して」

胸いっぱいで顔に抱きついて耳元でささやいた。

「わかった オレも李央としたいよ」

「うん」

ありがたいことにベッドまでそのまま運んでもらえたので身体をゆっくりたおして

入野のほうへ微笑んで手を差し伸べる。

入野がその手に自分の手を重ねておれに体重をかけてくる。

(ここでコンドーム出したら思いっきしひくよな・・・今日は中出しか・・やだな・・)



何度目かの電話がうるさいので入野の寝息を確かめて

おれは携帯をとってトイレにむかった。

「うるさい」

『そういうな。冷たいなぁ。で、首尾は?』

「上々」

『それはよかった、っていいたいところだけどやっぱり妬けるなぁ 今日は 結局中出し?オーラル?正常位?バック?』

「社長」

『ん?』

「情報は高くつくよ。覚悟しといて」

『わかってるよ。ボクの身体でいっぱい恩返し・・・』

「ばか。切るよ」

『おやすみ』

ベッドにもどって入野の手をよけていると突然入野が「李央!!」とか叫んだので

ものすごくびっくりしてあわてて寝たふりをした。

もしや・・・バレた・・・?

どきどきしていると胸と頬にキスをされる気配がした。

どうやら大丈夫みたいだけど・・・

おそるおそる目をひらくと入野は笑ってこちらを見ている。

「おはよ」

よかった。バレてないみたい。

「はよ。」

「朝からもうおかしいことがあるのか?」

どうやら安心して笑っていたみたいだ。

安心ついでに今後の事をピロートークでも話しておかないと。

「ねえ今度入野さんの仕事のこときかせてね」

「ん」

「お父さんは何も話してくれなくてつまんないんだもん。僕ずっと興味あったんだよ」

これは本当。

「李央の父さんはリッパだぞー今度いっぱい話してやるよ」

「うん!」

今度は一斉手入れの情報をドビーからきかなくてもすむ。

あいつのセックスは粘着質で気持ち悪いからなぁ。

冷房がゴーゴーいっていて少し肩が寒い。

もうそろそろ社長の言っていた新薬の鑑定があるはずだ。

楽しみだな、とおれは入野の腕枕に頭をすりよせながら思っていた。





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こういう夢をみたんです。欲求不満が爆発したのでしょうか。
個人的にはリオと皆川さんがくっついたりするのがおもしろいなーと思います。
キャラ的には社長が好きです。

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