金曜日をこえた向こうから1




(IRINO'S SIDE)



オレは目の前のモンブランがゆっくり二等分されてくのを見ていた。

くるみのモンブランっていうヤツらしく、黄土色というのか

渋皮の色をしたやわらかくもかたくもなさそうな

蕎麦のように幾重にも無秩序に重なったクリームが左右にわかれていく。

モーゼ。とかわけのわからないことも思ったり。

モーゼ役を務めているその少年は節の目立たない生クリーム色の手を上手に操っている。

オレは見たことなかった。こんな場面。こんな、シチュエーション。



五日前、椎名局長に呼び出された。

捜査の一環とかいってちょっと遊んでインターネットしていたオレは

ちょっとびくびくしながら部屋のドアをノックしたのをおぼえてる。

部屋なんていっても声は筒抜けの間仕切りで仕切られているだけのものだ。

局長はよくやってる癖なのか、資料のA4のファイルの折り目をしつこく折りながら

こちらをみて「ああ」といった。

・・・あまりいいことを述べてないような気がするが、

そんなこともなく、オレは局長が結構好きだった。

責任感はあるわりに上司ぶらず、温厚でわりあい寛大。

たまにぶちキレることもあったが人間味がある。人情ってものをわかってる。

そんなオッサンである。まぁよく居るっていえば居るし、いい上司といえばそうだ。

最近白髪が目立ち始めた頭をあげて「ちょっと座ってくれ」と

軽い感じで言う局長を見てオレは正直ちょっとほっとした。

「新しい事件でも」

「いやそういうわけじゃないんだが」

「そうですか」

「7年前の麻薬強盗事件知ってるか。藻日の」

「ええと、ちょっとは。局長のお手柄だったんですよね」

「その主犯格のヤツが出所する」

「いつですか」

「明日だ」

「はやいっすね」

「模範囚だったらしい。まぁそれはいいんだが」

局長のメガネよごれてんなぁーとかオレは思っていた。

彼が伴侶と死別していることはオレも知っている。

家に帰っても料理なんかないのだろう。

目尻のシワが深い。

「今お前手が比較的あいてるな」

やっぱりお見通しだったのか・・・ふう、と思わずため息をつく。

麻薬の取り締まりなんてやっているうちの課では

ヒマな時なんてめったにあるもんじゃない。

いつも戦場状態だ。

だからこそ、入省2年目のオレなんか出る幕があまりない。

地道な捜査段階では参加させてもらえるが、

いざ検挙となったら後方支援しかできないからだ。

この所、大きなケースが連続しており、オレは膨大なデータ処理に忙殺され、

ハッキリ言って仕事がつまらなかった。

「ボディガードを頼みたい」

「局長の身辺警護ですか」

「いやうちの家族だ」

「はあ」

「もちろん出勤扱いだ 時間ボーナスも出る」

局長には一人息子が居る。一度、写真を見せてもらったことがあるが

彼がまだ3歳くらいの時のものだった。

母親に抱かれて何も悩みのない天使みたいなガキだった。

確か今高校生だったはずだからはっきりいって面影なんかなさそうだ。

・・・めんどくせー・・・

最初に思ったのがこんな感想。まぁ当たり前っちゃー当たり前だろう。

今時の高校生の相手なんてめんどくさい以外のなにものでもない。

「以前にも犯人に狙われたことがあってな・・・かなり気がかりなんだ」

「そうですよね」

しかし、頼みたい、なんていってるがこれは業務命令だ。従うしかない。

オレは気を付けの姿勢で辞令をおしいただいた。



お前のことは説明してあるから、と局長に言われ、オレはただ高校の前に突っ立っていた。

なんせ顔がわからないんだからあっちから見つけてもらうよりしょうがない。

(写真をくれ、といったオレに局長は忘れたと言い放ちやがった)

オレは局長の顔や背格好を思い浮かべた。

そこから色々なパーツを若くして彼の息子を創造して行く。

深いシワをなくす。疲れた目もと、太い眉、がっしりした顎とやや骨の出た鼻。

身長は高めでがっしりしている。

頑健な中年、といった風情だから息子も体格の良い高校生なのかもしれない。

やや猫背気味の姿勢、きっちりとなでつけられたごましおの髪。

「入野さん?」

局長がまぶたに焼き付いて一瞬全く脳みそが機能しなくなった。

余程マヌケな顔をしていたと見える。

「あはは、僕、よく父に似てないって言われるんです。李央です。いつも父がお世話になってます」

夏服のシャツにショルダーバッグをリュックのように両肩に背負って

心持ちまぶしそうに佇むその姿にオレは見覚えがあった。

「あっそ、そうだね、似てないね あっご、ごめん・・・」

ふふ、と雑音のない声と顔でわらう椎名李央をオレは改めて見る。

見覚えのあるのは3歳の時の写真?それとも・・・

「今日はこれから塾・・とか?」

「まだ僕高1だから塾行ってないんです。まっすぐ家に帰ってもいいですけど・・・」

涼しげな目線をこちらによこして彼はまた笑った。

「入野さんがよければどこか行きませんか?」



今のうちに遊んでおきたい、とか目の前の高校生はオトナっぽい口ぶりで言う。

社会人としてはうらやましいようなねたましい様な複雑な気分だ。

確かに李央の通う高校は国立付属の男子校で

高3ともなればすさまじい受験勉強の渦に巻き込まれること必至なのだろう。

「みんな東大目指すっていうんですよ」

つまらなそうな口ぶりで言う隣の少年を少し見下ろしてみた。

オレよりは若干背が低い。

若い者だけのもつシャープな腕が夏服からすんなりと伸びている。

オレは自分に自信がないもんだから、努めて彼の学校の話とかを集中して聞いていた。

・・・聞いてるふりをしていただけかもしれないが。

オレはまず人を外見で判断してしまうクセがある。

男女問わず相手が自分よりはるかに外見で勝っていると

変に意識してしまって円滑なコミュニケーションがとれない。

(そういうのはオレだけじゃないとは思うが。)

でもやっぱりそうそうクセはなおらない。

オレはついつい横の少年(まだ青年とはいえないだろう)を観察してしまう。

「えーと李央君は今16歳だっけ」

「ハイ」

「わっかいなーー」

若いだけじゃない。

ミルクみたいな肌色。

油っぽいわけではない日に輝く頬。

真っ黒でさらさらの少し長めの髪。

いくぶん切れ長でネコのようにくるくる動く利発そうな瞳。

長い睫毛と少し尖り気味のうすいくちびる。

全体的に華奢で瀟洒な白い建物を思わせる身体。

それでいて生気に満ち溢れている。端正な表情も崩れないで実によく動く。

本当に父親とは別の生物だな・・・と思っていると「入野さんはおいくつですか?」

いやでも現実を突きつけてきやがる。

「24だよ。キミからみればおじさんだろ」

「そんなことないですよ。かっこいいですよースーツきて、すっごい大変でやりがいのある仕事して」

「はは、ありがとう」

「もーホンキでいってるんですよ」

幼さの残る頬のラインをいっそう丸くして涼やかな声で滑らかに喋る。

それに触ってみたいと考えている自分に呆れる。猫に触りたいっていうのと一緒じゃないか。

気持ちのいい毛並みにふれてみたい。



レベルが高い。

容姿だけじゃない。

会話の内容、話術、仕草、全てが計算なのか天然なのか、非常な高レベル。

オレには一生真似できそうにない段階に達している。

その日は代官山に買い物に行きたいという李央に付き合って、次の日はカラオケにいった。

彼はオレのヘタな歌に盛り上がって、いや盛り上げてくれた。

買い物の最中も常にオレに話を振ってくる。

あの涼しい風の吹くような目で見つめてくる。見上げられる。

いつも感じる、自分と他人の違和感をあまり感じない。

相性がいいのか、今回オレがうまくやっているのか、李央がすげえのか。

家まで送り届けて任務は終了となる。家は別の制服警官が配備されている。

さよならの時間に李央はいつもさみしげな顔をして「じゃあ、また明日」と言う。

明日を確約する言葉。それを聞きたくてたまらない自分が居る。

翌日の午前中は久々に本庁に顔をだして局長に報告をすませた。

相変わらずすごい勢いで折り目をつけながら局長は書類を読んでいる。

「すまないな、迷惑をかけて」

「とんでもないです」

「李央はちゃんといい子にしているかね」

「はいとても」

「そうか、私はしばらく家に帰れそうにないんだ。この案件が片付くまで」

「局長」

「何だ?」

「似てないですね」

唐突なオレの言葉に一瞬面食らったような顔をした局長は次の瞬間破顔した。

「はっはっはよく言われるよ。あれは妻にそっくりなんだよ」

「そうでしたか」

それでオレも合点がいった。どこかで見たような気がしたのは写真の中の彼の母に、だ。

「でも頭のいいところは局長ゆずりですね」

「ゴマをすっても何にもならんぞ。まぁしかし、あれも喜んでいる。お前と毎日会うのが楽しみだそうだ。 私にもメールをくれたよ。兄ができたみたいと言っていた」

「兄、ですか」

「すまんがよろしく頼むな これからもしばらく」

冷房の効いた室内でも汗をにじませている局長の額を見つめながらオレは敬礼した。



プランタン銀座のなんとかっつー店のモンブランを切り崩しながら

そしてこんな話を今日はしている。

このモンブランが食べたかったそうだ。

この前からそういえば甘いものをよく摂取している。この高校生は。

「で?」

「いないよ」

「そうなんだ 李央はモテるだろでも」

「この前友達の人数あわせで合コンに行ったらソイツ、ソッコーお持ち帰りしてその日にもうラストまで行っちゃったんだって」

「まったくイマドキの高校生は〜」

「その発言オヤジくさーいけどでもオレもちょっとヤダ」

「李央は意外とマジメだもんな」

「意外とが余計じゃん・・・入野さんこそ、彼女は?」

「フラれた」

「あはっ」

「むっ笑ったな!」

今でこそ笑い話だが2ヶ月前に別れた・・・というかフラれた彼女は本当に美人できれいで

そしてやっぱり他に男がいた。

オレは一ヶ月くらい死の淵をさまよった・・・というと大げさかもしれないが。

それくらい落ち込んだ。

「だってー」

「オレは。。。ダメなんだ・・・面食いでさ」

「へえ」

「今までもすっげえ美人としか付き合ったことない」

「うわーのろけ〜」

フォークを口ん中につっこんだままでにこにこしている。

行儀が悪いはずの仕草も李央がやるとなんだか絵のようにおさまる。

美形というのはそんなものだ。

今までのオンナもそうだった。

いくら小憎たらしいことをいわれても、わがままを言われても、かわいいし、

化粧がヨレても髪がぼさぼさでもその姿はサマになっていて美しい。

「のろけじゃないよ、落ち込んでんだ」

がくっと首をたれると、黒目のでかい眼でそっと李央がこちらを窺っているのが感じられる。

「ごめんね・・・?」

その手をガッと掴んで腕ごと栗ののったフォークを自分の口にほおりこんでやったら

途端に怒り出しやがった。

「わー!ひどい!!栗最後に食べようと思ってたのに!!入野さんのバカー!!」

「ガッハッハ人の恋話をバカにするやつはこうなるのだー」

「せっかくやっとアンジェリーナに来れたのに!」

ぽかぽかと拳を振り上げてくるミルク色の腕をよけながら

やや乱れている黒髪をわしゃわしゃかき回してオレは眩暈を覚えた。

どうしたらいい。



ピルルル。

また李央の電話がなる。

「友達からだちょっとまってて」

彼は友達が多いやつなんだな・・・とぼんやり思う。

こうやって身辺警護でぴったりくっついている間にも1時間おき位に電話がなるので

オレはてっきり彼女がいるもんだと思っていたのだ。

電話が終わって帰って来るといつも李央は不思議な空気をまとっている。

彼の世界の空気というのか。

人それぞれ皆自分の中の確固とした核があって

そこから発せられる空気というものがあるとおもう。

雰囲気というか、バリアというか。

それが李央は強いのだろうか。

そんな時はこころもちオレは置いていかれたような気になる。

最も直ぐにその空気は薄まっていつもの李央にもどるのだが。



銀座から広尾にでて買い物をしたあと、1時間くらい家まで歩きたいと李央が言うので

仕方なく前を歩く女のミニスカートの脚を見ながら歩き出した。

「前に行った店でね、アロワナがいてね」

「うん」

「アロワナ知ってる?」

「うん」

「もーー・・・聞いてる?」

「うん」

前を歩く女の、形のいい脚と、横を歩くの少年の形のいい筋の通って高すぎない鼻、

『選べねえ』とかバカみたいに思う。

「有栖川宮公園のアヒルがね」

「うん」

「雨になるとでてきて歩き回るんだよ」

「うん」

「なんかすっごい天気悪くなってきたね、雨振るかもね。アヒルみれるかも」

「そうだな」

「僕の話聞いてないくせに僕の顔ガン見してるねー」

苦笑しながらほんの少し彼はこちらを向いた。

李央は真顔だと近寄りがたいような清澄たる佇まいだが笑うとそれがいい意味で破れて

とたんに人懐っこい空気に変わる。

オレはそれを見るのが好きだった。

「何か言いたいときにいつもあなたは無口になって私をただ見てるのね」

よく彼女に言われた。前の。前の前だったかもしれない。

なぜならそれで頭がいっぱいで人の話を聞いている余裕や

まわりを気にしている余裕がないからなんだ。

自分でもどうにもならない。

パタ。パタッ

「うわっやっぱり降ってきた!」

「走ろう!」

雨は見る間にバケツをひっくりかえしたような勢いになった。

「タクシーひろうぞ」

「うん」

道路にでると走ってきた車に水をかけられそうになる。

思わず手帳をだしてキップをきりたくなる。(管轄外だが)

「ダメだねーこの雨でみんなタクシーうまってるね」

雨と水滴であたりが煙っている。李央がまるでドライアイスに包まれているように見える。

「とてもこれ以上走れないし李央が風邪ひいたら大変だ。どっかに雨宿りするとこ・・・」

「あっあそこ入ろうよ!」

「えっ」



自動販売機のような窓口でキーをうけとって部屋に入ると

「うわぁ」といって李央が立ち止まった。

彼が指差した先はいわゆるそういうホテルだった。

オレは気がすすまなかった。そりゃ数回は来たことくらいはある。

でも雨宿りに入るには今のオレはよくわからない状態になっている。

よくわからないけどそれくらいはわかる。

「予行演習だよいつかの」好奇心丸出しの白い顔にはりついた

濡れた黒髪をジャマそうにはらいながら

ずんずん歩いていく李央の後を追いながらオレはどんな顔をしていたんだろう。

どんなことが起こるのか目に見えるような気がした。

中はあまり変哲もない部屋だったが普通のホテルにはないような鏡やベッドに

高校生は少々気後れしたらしい。

とにかくオレがついていて風邪をひかせたらシャレにならない。

根がはえたように突っ立っている李央にバスタオルを頭から被せてごしごしふいてやった。

「ちょっと寒い・・・」

「冷房効きすぎかな。濡れたの着てると余計寒いぞ」

「うん 脱ぐ」

バスタオルを頭に引っ掛けたまま李央は身体にまつわりつく

シャツを脱ぎにくそうに脱いでベッドの上にぽんと放った。

「ちゃんと畳めよ」

「あとで」

「おぼっちゃんだな」

なんだかロレツがまわりにくい。

「ズボンも水で重い」

「ほらちゃんとふけ」

オレの方を向いている李央の視線を避けるように動いて

頭のバスタオルをとって身体を包んでやる。

彼は腕をキョンシーのように拭いてくれといわんばかりに伸ばしてくる。

オレはどんな顔をしてる?

ちゃんとした行動をとれてるか?

「背中もぬれてるだろ 後ろ向いて」

「うん」

李央のしゃらしゃらした瞳が見えなくなって少し気がゆるんだ。

バスタオルを李央の脇の下をまわして巻きつけながら

手を表にまわして雨の粒をすいとっていく。

ふとそれを感じる。ホテルの安いタオルの下にある対照的に綺麗な肢体の胸を掌に。

わざと強めにタオルで拭って突起を探して指先でそうっと布越しに触れてみる。

何かの境界線のようだと思った。

ここをこえちゃいけない。反面、ここを越えたら素晴らしい世界がまってる。

オレの動きに気付いたのか李央が小さく息を呑むのがわかる。

それが妙に艶っぽく感じる。

頭に光がいっぱいにさして、眩しくて正しいことが何だかわからない気がしていた。

光の向こうに、それをこえた向こうに何かがある。きっとある。

でも、わからなかった。

わからないまま、濡れて頭の上の方に固まった髪のせいで

むき出しになった李央の耳の下に唇をそっと触れていた。

続けざまにうなじの中心、肩の上となぞっていく。

「・・んっ」李央が声をあげる。

「抵抗 しないのか」

我ながらバカみたいな質問だと思う。

突然、頭だけ振り向いた李央は目にたくさん光を溜めて

口をあけたまま激しく口づけてきていた。

彼の熱い舌がオレの舌の上で緊密な動作を繰り返して

やや青みがかった瞼を乱暴に閉じるとその光は李央とオレの顔中にあふれる。

この光が欲しかったのかな。

オレはきっと。

「んっ はぁ・・・やめないで・・・」

長い深い口付けで李央が苦しそうなので一旦顔を離してやると

彼は首を捻じったまま目をうっすらあけて

そう呟いた。

まだ前を向いている彼の身体の胸から下に手を這わせていくと

水を含んで重く冷たくなった黒のデニム地に触れた。

乱暴に前を開いて下着の中に手を差し入れる。

「ぁん・・っ」

跳ねるように顎をそらせてその刺激に耐えようとする色素の薄い彼の顔を

心底綺麗だとオレは思う。

今までのオレの人生での美しいものへの憧れ、恐れ、そんなものではなく、

純粋な愛おしさ。

純粋なだけに狂おしいのかもしれない。

右手で乳首を中指と薬指の間に挟んでひねりながら

李央の膝までジーンズと下着を押し下げて左手は性器に戻る。

この時点で李央の膝には力が入らなくなりずるずると一緒に床にへたりこんで

オレは胡坐に彼を座らせる形になった。

濡れた黒髪の前髪が半ば乾いて紅潮してきた李央の薄い顔の皮膚にまつわりついている。

そんなありさまがひどく扇情的だった。

「ホントに・・・いいのか」

なのに何度も確認をしなければ済まない自分が本当に情けなく思える。

李央は必死にオレと向き合う形になおって

オレの顔一つ分上から顔を包み込んで瞼にキスをしてくれた。

「僕・・・初めて・・なんだ・・入野さんみたいな・・・」

白い顔が朱に染まっている。

潤んだ瞳はそれでもまだ羞恥をのこしてオレの顎あたりにさまよっている。

「オレもだよ・・・」

「こわいけど・・・でも・・・だいじょうぶだから・・・」

無理して口角を持ち上げている様が本当にいとおしくて

オレは李央の顔全体にキスをしまくった。

壊れ物のように右手の胎でそっと腰あたりをまさぐる。

本当に滑らかで白くて細い。光がオレの目前にあふれ出すようだ。

壊してしまいそうで胸がどきどきと脈打つ。

「オレは・・李央と・・・こうしてくっついてるだけで・・・うれしいから」

「やだ!」

改めて李央の胸全体でオレの顔が包まれる。キメの細かい肌がじかに感じられる。

ついさっきまで見ることもかなわなかったこの身体。

素晴らしい頭脳と心を内包しているこの身体。

「僕は・・最後まで・・したい・・・して・・・」

耳元で囁かれたそれはオレの疑い・不安・全部光の向こうに押し流すのに十分な言葉。

「わかった オレも李央としたいよ」

「うん」

ゆるいゼリーのようにふるふると二人でゆっくりとベッドにくずおれていけばいい。

そうしたらきっと全て、上手くいく。

彼はいくつ?高校生?オレはいくつ?立場は?

そんなものは飛び去ってしまえばいいさ。

あらかた着衣を取り去って李央の華奢なととのった掌に自らの手をあわせて握り締めると

李央はにっこりわらった。

そう この顔がすきなんだ。



もやもやした視界の中で李央が何か喋っている。

入野さん

入野さん?

知らないそんな人

僕は僕 誰にも囚われないよ

「李央!!!」

口に出していたのだろうか。

オレは自分の咆哮で目が覚めると李央は隣で裸の肩を出して眠っていた。

胸まで毛布がはだけている。

眠るといつにもまして頬のラインが幼く見える。

「李央・・・あんなこと絶対・・言うなよ」

剥き出しの胸と頬にキスをして毛布をかけなおしてやると李央は

濃い睫毛で縁取られた目をパッチリとあけた。

「おはよ・・・」

「はよ・・んふふ」

「若いな・・・朝からもうおかしいことがあるのか」

「ううん・・・居てくれてうれしかったから」

返事のかわりに李央の細い髪をゆっくりとなでてやった。

「ねえ 今度入野さんの仕事のこときかせてね」

「ん」

「お父さんは何も話してくれなくてつまんないんだもん。僕ずっと興味あったんだよ」

「李央の父さんはリッパだぞー今度いっぱい話してやるよ」

「うん!」

外は暑いのに冷たい二の腕をゆっくり撫でながらオレは

身辺警護の期間延長をしてもらおうかな・・と考えていた。





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